NEW最近読んだ本の内容を紹介します。

<玉石混交>とりあえず覚え書き



  
☆☆☆☆☆が最高。☆☆☆以上がお勧め

著者 お勧め度 内容紹介
さがしもの 角田光代 ☆☆☆☆ 「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床のおばあちゃんに頼まれた一冊を求め奔走した少女の日を描く「さがしもの」。初めて売った古本と思わぬ再会を果たす「旅する本」。持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉「手紙」など九つの本の物語。
薄闇シルエット 角田光代 ☆☆☆ 結婚してやる。ちゃんとしてやんなきゃな」と恋人に得意げに言われ、ハナは「なんかつまんねえ」と反発する。共同経営する下北沢の古着屋では、ポリシーを曲げて売り上げを増やそうとする親友と対立し、バイト同然の立場に。結婚、金儲けといった「ありきたりの幸せ」は信じにくいが、自分だけの何かも見つからず、もう37歳。
角田光代は「対岸の彼女」「空中庭園」「ドラママチ」なども読みましたが、上の二つが一番好き。最初に読むなら「さがしもの」ですね。
眠れるラプンツェル 山本文緒 ☆☆☆ 「プラナリア」が結構面白かったので2冊目です。
透明感のある雰囲気はよかったですが、ほかお勧めはあるかしら。
赤い指 東野圭吾 東野圭吾は出たら読むようにしてますけど。
これは今ひとつです。
こぶしの上のだるま 南木佳士 ☆☆☆ 短編集。医者であり、鬱を病んだ著者のふるさとで出会った人々を描いている。「医学生」「医者という仕事」で好きになった作家です。
まだ読んでないのがたくさんあります。楽しみ。
楽園(上下) 宮部みゆき ☆☆☆ 「模倣犯」の続編だと思って読まないほうがいい。「火車」「模倣犯」「理由」が宮部の真骨頂とすればちょっと物足りないかもしれないが、しばらくぶりの宮部らしい作品だ。超能力を持ち早世した母子家庭の少年等(ひとし)の描く絵から、ある事件に核心に迫っていくその手法はさすがに宮部みゆき健在なりと思わせる。両親に愛されているという実感が持てないまま、家族の手の届かないところに居場所を求める子供たちの悲しみ、思いもかけない人間に変貌していく娘や息子に翻弄される家族。またその逆も。一筋縄ではいかない家族の関係。一気に読みきってしまった。
薬指の標本 小川洋子 ☆☆☆ 「封じ込めること、分離すること、完結させることが、ここの標本の意義だからです」技術士の弟子丸氏は言った。彼が標本にできないものは何一つない。様々な品物が持ち込まれ、標本化によって依頼者は安堵を得る。その「標本室」に事務員として採用された「わたし」。 好き嫌いの分かれる作品かな。漂白され透明感のある文章の独特の雰囲気。非日常の世界は日常から逃れたかった時期にはとても面白く感じました。
フランスで映画化されていますね。かなり原作に忠実でいいようです。
偶然の祝福 小川洋子 ☆☆☆ 一人称の私がつづる私小説風の体裁であるが、日常から少しずれた不思議な空間、現実と非現実が微妙に入り混じる。短編の一編一編が印象的。「博士の愛した数式」の原作を読みたくなる初めての小川洋子作品。
水滸伝
(第一巻〜第五巻)
北方謙三 ☆☆ いま「水滸伝」第5巻にかかっている。これは19巻まであるのでまだ先は長い。
1巻から4巻までは中枢をなす多くの人々が克明に描かれ、いまようやく各地で体力をつけつつあった叛徒のグループが「替天行道」旗印の下、動き始めた。「水滸伝」はあまりにも有名な話だが、北方「水滸伝」はそれを独自の視点で再構築している。原作にはない「塩の道」で経済的な裏づけを。また元禁軍の剣術師範王進は原作では途中で消えてしまうが、ここではならず者に剣術を教え、母が書を教えるという教育の裏づけも。そして飛脚屋が情報を集積し配信する。現代に通じる解釈で実に面白い。腐った国に刃向かう叛徒と、禁軍に裏切られ、あるいは禁軍を見切った戦争のエキスパートたちがひとつ旗の元に結束する。リーダーはどうあるべきか、志とは何か、一人一人を克明に描くことによって、厚みが次第に増して行く。何しろ19巻なので、これから楽しみだ。文章もいい、心に染みるせりふが随所にある。北方「水滸伝」誕生の背景には全共闘の時代、キューバ革命がある。同時代人として、非常にインパクトを感じる。興味のある方は下の対談をご覧ください。

http://www.yurindo.co.jp/yurin/back/406_2.html
霞町物語 浅田次郎 ☆☆☆ 青山と麻布と六本木の台地に挟まれた谷間には、夜が更けるほどにみずみずしい霧が湧く。そこが僕らの故郷、霞町だ。あのころ僕らは大学受験を控えた高校生で、それでも恋に遊びにと、この町で輝かしい人生を精一杯生きていた。浅田次郎が初めて書いた、著者自身の甘くせつなくほろ苦い生活を綴った連作短編集。(出版社/著者からの内容紹介)
浅田次郎ってほんとの東京人だったのね。写真館の主としての祖父の江戸っ子ぶりに惚れました。売れっ子芸者だった祖母の江戸前の粋っぷりは特筆ものです。
天窓のある家 篠田節子 ☆☆☆ 「友と豆腐とベーゼンドルファー」「パラサイト」「手帳」「天窓のある家」「世紀頭の病」「誕生」「果実」「野犬狩り」「密会」表題作など,9編の短編集。どれも篠田節子らしい面白さがある。ひたすら家族のために一円のお金も無駄にしないでがんばっている私の気も知らないで、見栄を張る夫。自分のすべてを犠牲に仕事をしてきたキャリアウーマンへのきつ〜〜いしっぺ返し。おいしいところだけをつまみ食いしながら許せない生き方をしている友人が、とどのつまりは自分よりよほどまっとうに幸せになっていく、友人に対する羨望。自由奔放に生きる、「三十過ぎたらばばあ」と舐めた口の聴き方をする女たちへの天誅。などなど。かなり面白い短編集でした。私は「友と豆腐とベーゼンドルファー」「手帳」が面白かった。
椿山課長の七日間 浅田次郎 ☆☆☆ 働き盛りの46歳で突然死した椿山和昭は、家族に別れを告げるために、美女の肉体を借りて七日間だけ“現世”に舞い戻った!親子の絆、捧げ尽くす無償の愛、人と人との縁など、「死後の世界」を涙と笑いで描いて、朝日新聞夕刊連載中から大反響を呼んだ。まあまあ面白かった。映画は西田敏行らしい。彼をイメージしながら読むとぴったりだわ。
手紙 東野圭吾 ☆☆☆ 強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。犯罪者の家族を真正面から描いた佳品。良かったです。
変身 東野圭吾 ☆☆ 平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める (出版社 / 著者からの内容紹介)あまり面白くない。
姫椿 浅田次郎 ☆☆ 飼い猫が死んでしまったOL、経営に行き詰まり、死に場所を探す社長、三十年前に別れた恋人への絶ち難い思いを心に秘めた男、妻に先立たれ、思い出の競馬場に通う大学助教授…。全八篇の短篇集。まあまあでした。
プラナリア 山本文緒 ☆☆ 第124回直木賞を受賞。無職をテーマにした5つの作品。
『プラナリア』「だってワタシ乳ガンだもん。」「生まれ変わったらプラナリアになりたい。」露悪趣味の春香25歳。はちょっと趣味じゃなかったけど。
『ネイキッド』バリバリのキャリアウーマンだった泉水36歳が2年前の離婚を機に無職の生活に。鬱々としている私にとって、これは元気の出る話。
『どこかではないここ』夫が下請け会社に出向になり収入が減ったため、週3日22:00〜26:00、スーパーのパートに出ている真穂43歳。思い通りにならない子育て、一人暮らしの母親への弁当の配達、 自分をようやく見つけ始めた専業主婦の吹っ切れ方が爽やか。
『囚われ人のジレンマ 』誕生日に、まだ学生の彼から「そろそろ結婚してもいいよ」と云われた成功恐怖症の美都25歳。成功恐怖という発想がちとわからなかった。
『あいあるあした』脱サラの居酒屋店主誠36歳。 宿無しの占い師の女客とのほのぼのストーリー。どれも結構読み応えありです。
破線のマリス 野沢尚 ☆☆☆ 江戸川乱歩賞
破線とはテレビの画面の525本の横線。この横線は実線ではなく点からなる破線。これが集まって画面に絵柄が浮かぶ。マリスとは悪意、中傷を意味する。主人公は報道番組で放映するビデオのやり手の女性編集者。ここまで書けばだいたい内容が想像できますよね。推理物なのでネタばれ回避で。悪くない、まあまあです。
これは映画になったようですが、主役の女性編集者が「黒木瞳」ということで、映画はパスですね。もっと切れのいい線の太い役者でないと役に負けてしまいそうです。
深紅 野沢尚 ☆☆☆ これは掘り出し物でした。吉川英治文学新人賞受賞作。
家族4人を惨殺された少女と、惨殺した男の一人娘のその後。二人がある時点でクロスする。心に傷を負った二人が、それぞれの思いをどう昇華していくか。丁寧な筆致できめ細やかに描かれている。
これも映画になったようですね。
配役はなかなかいいようです。これは映画もぜひ見てみたいと思います。
ブレイブストーリー 宮部みゆき ☆☆☆ 宮部みゆきの「ブレイブストーリー」(上中下)読了しました。 小学5年生の普通の男の子、亘(ワタル)の物語です。 父と母と三人で幸せに暮らしていたはずだったのに、ある日突然父がこれは間違った結婚だったといって、女の人のところへ行ってしまうのです。突然の家庭崩壊、全くつんぼざじきに置かれていた彼にとっては青天の霹靂、彼なりに何とか修復を試みようとするのですが、父は頑なに、「お母さんとの結婚は間違いだったが、僕がワタルの父であることは死ぬまで変わらない。」といって去ってしまう。ワタルは「間違った結婚の結果生まれた僕はいったいナンなんだ。」と悩みます。
その後彼は幻界へ行き、RPGゲームさながら冒険を通して心優しい強い少年になっていくのですが。大人の問題の中で無力な子供の心が実によく描けていると思います。途中、「ああ、やっぱり子供向きかな〜〜。」と思ったのですが、彼女の世界観、現世(うつしよ)の人たちの心の問題、さまざまな矛盾が、幻界(ヴィジョン)のありかたに実にうまく投影されていて、やっぱり宮部だな、と思いました。
本当に勝つこと、何が勝ちで、何が負けるということなのか、最後にすとんと腑に落ちる。さわやかな読後感でした。 久々に降りる駅を忘れて、乗り過ごしてしまいました。
RPGにはちょっとうるさい私ですが、映像にしてもすばらしい光景を、宮部はよく描き出しましたね。
アニメが出来たそうですが、あまり見たいと思いません。
不帰の砂漠、嘆きの沼、デラ・ルベシの凍れる都、皇都ソレブリアの水晶大宮殿の美しさは想像のままにしておいたほうがいいですね。
宮部ファンの贔屓目もあると思いますが、私はよかったです。  
怖い絵 久世光彦 ☆☆☆ 向田作品のプロデューサーとして名前を知っていたこの人。なかなかにいい作品を作ると印象に残っていた。たまたま古本屋で、見かけたので、買ってみたが。幼少時代から彼の青春の終りまでを一つ一つの絵画にまつわる思い出でつづる。彼の人となりや人生観が一味違った表現でなされ、面白かった。
ものいふ髑髏 夢枕獏 ☆☆☆ 収録作品『夜の訪問者』『二本足の猫』『抱き合い心中』『闇の中の小指』『びくいしとい』『もののけ街』『真言士』『ミサちゃんの生霊の話』『ものいふ髑髏』『安義の橋の鬼、人を喰らう語』
回顧的な口調で書かれていて、どれもなかなかに味のある作品群でした。「ものいふ髑髏」は宝井馬琴が国立劇場で語った作品とか。また『安義橋の鬼、人を喰らう話」はあの白石加代子が『百物語』で語ったとか、白石加代子は鬼気迫る演技のすごい役者ですよね。劇場で聞けば面白かっただろうなと思います。
これも夢枕獏の守備範囲の広さを知った思いで、楽しみました。
文章がいいですね。これからいろいろ読んでみようかと思わせる短編集でした。
仄暗い水の底から 鈴木光司 ☆☆☆ これは面白かったです。鈴木光司の長編もいいけど、短編集でかなり完成度が高いと思いました。収録作品『浮遊する水』「孤島』『穴ぐら』『夢の島クルーズ』『漂流船』『ウォーター・カラー』『海に沈む島』どれも、なかなかでした。
魔獣館 夢枕獏 ☆☆ 著者自身が『巷で言うところのおどろおどろしげなセックスとバイオレンスの世界だけではない自身の幅と可能性を示したいということで自己の作品を選び収録』(著者による本書の解説より)
7作品が収録、超伝奇アクションその一作目は「夜叉の牙」(「魔獣狩り」より)封印された密教の行法<外法炉>をスーパーヒーロー美空が取り戻す。これはセックスとバイオレンスでしたけどね。ブラックメルヘン「夢蜉蝣」萌え的でした。
<映像化への試みとして>と題する「精神(サイコ)ダイビング」まあまあ。メルヘンホラー「ことろの首」怖い、叙情幻想「木犀の人」いいお話でした。山岳幻想「山を生んだ男」発想が面白い。伝奇アクション「傀儡師」これはバイオレンス。
私としてはあまり読んでいない作家だけに、面白かったです。
レイクサイド 東野圭吾 ☆☆ 小品ですが構成が結構面白い。
醍醐の桜 水上勉 ☆☆☆ 水上勉は好きで、昔はずいぶん読んだものです。最近久しぶりに古本屋で、彼の名前を見つけて買ってみました。心筋梗塞で九死に一生を得た水上氏が、リハビリを兼ねて京都に滞在しているときの散文集。老いてなお、みずみずしい感性を失わない筆者にいっそうの魅力を感じました。
OUT(上下) 桐野夏生 ☆☆☆☆ 深夜の弁当工場で働く主婦たち。チームの中の1人の主婦がある夜夫を殺してしまう。こんな暮らしから抜け出したい。その思いが一人のばらばら死体を作り、完璧に近い処理をする。チームリーダー格になる雅子はもと金融機関の事務職。、自分の世界でしか生きられない夫と、反抗期の息子がいる。夫を亡くし寝たきりの姑と、娘と暮らす一本気のまじめなよしえ、夫のギャンブルと浮気に苦しめられながらもよい母であろうとする弥生、ブランド狂いで借金地獄に陥っている邦子。一人一人がとてもよく描けていて、単なるサスペンスではない。死体処理がビジネスになろうとしたとき、倒錯的な男佐竹が絡みはじめ、非常に、怖い展開になるが、最期まで面白く読めた。私は「柔らかな頬」よりこちらのほうがすきですね。
顔に降りかかる雨  桐野夏生 ☆☆☆ 親友のノンフィクションライター宇佐川耀子が、1億円を持って消えた。大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部につながる暗い過去を持っている。あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して解明に乗り出す。二転三転する事件の真相は?女流ハードボイルド作家誕生の’93年度江戸川乱歩賞受賞作!(出版社/著者の内容紹介から)
比較的凡庸です。でも面白かった。主人公の女性がどれもよく似たキャラクターなのが、気になりますが。
屍鬼(1巻〜5巻) 小野不由美
☆☆ 現代社会から隔絶された村、そこに屍鬼は安住の地を見つけようとした。次々に村人を襲う死、それに気づく医師、その友人の僧侶、屍鬼の秘密に気づいた少年は屍鬼の手にかかり、屍鬼としてよみがえらざるをえなかった。彼は自ら生きるために他者を殺さなくてはならない。人々は苦悩のどん底に突き落とされる。これは東洋版吸血鬼伝説だ。キリスト教とは異なる、吸血鬼に対する哀れみが前編を貫いている。無常観ここに極まれリといった解釈。スティーブン・キングの「呪われた町」と比較するとおもしろい。読み始めると、夢中になる。でもお勧めかというと???です。
同級生 東野圭吾 ☆☆ 同級生の宮前由紀子は彼の子を身ごもったまま、そして彼の愛が本物だったと信じたまま事故死した。彼にできる償いは本気の関係だったと皆に告白することと事故の真相を暴くことだけだった。やがてある女教師が関わっていたことを突き止めるが、彼女の絞殺体が発見されるや、一転彼は容疑者にされてしまう。 東野 圭吾の少年もの。
虹を操る少年 東野圭吾 ☆☆☆ 光”を“演奏”することでメッセージを発信する天才高校生・光瑠(みつる)。彼の「光楽」に、感応し集う若者たち。しかし、その力の大きさを知った大人たちの魔の手が忍び寄る。東野 圭吾の超能力もの。彼の描く少年少女はとても魅力的だ。
柔らかな頬 桐野夏生 ☆☆☆ 「現代の神隠し」と言われた謎の別荘地幼児失踪事件。姦通。誰にも言えない罪が初めにあった。娘の失踪は母親への罰なのか。直木賞受賞作(出版社/著者の内容紹介から)
下と同じ作者とはとうてい思えない。ガラス細工のような主人公の心、事件後の愛人の変貌の悲しさ。ガンで余命いくばくもない元刑事が振り絞る想像力のすさまじさ。読み応えがありました。これから読むのが楽しみな作家です。
魂萌え ! 桐野 夏生 ☆☆☆ 夫の急死後、世間という荒波を漂流する60歳を目前にした主婦・敏子。夫が死んだ夜夫に女がいたことを知る。こんなはずじゃなかった息子夫婦、頼れない娘、いま隣のうちで起こっているような話だ。初めて夫の庇護を離れ一人で生きてゆかねばならない。これから先は喪失との戦いだ。さまざまな人間を通して成長する敏子。桐野 夏生のなかでは異質の作品。図書館にあれば借りて読む程度の内容だが、近い年代の私にとっては、世間知を得るうえでは面白かった。もしも夫に違う生活があったとしたら、考えただけでも腹立たしい、そういう疑似体験をすると言う意味でもまあお勧めですね。
黄泉がえり 梶尾 真治 ☆☆☆ 熊本で局地的に死者が蘇る現象が多発。死んだ当時の姿そのままだが、どこか微妙に違和感が…。喜びつつも戸惑う周囲と混乱する行政。やがて聞こえる終幕へのカウントダウン。映画にもなりましたね。ハートウォーミングストーリーです。この人のは単なるオカルトではなく、SFッぽい感覚で好きです。
OKAGE 梶尾 真治 ☆☆ 「黄泉がえり」の序曲という帯封を見て買いましたが、期待はずれ。
ドミノ 恩田睦 ☆☆☆ 一億の契約書を待つ生保会社のオフィス。下剤を盛られた子役の麻里花。推理力を競い合う大学生。別れを画策する青年実業家。昼下がりの東京駅、見知らぬ者同士がすれ違うその一瞬、運命のドミノが倒れてゆく!些細な出来事が一つの方向に集約していくパニックコメディー。暇なときには結構面白い
象と耳鳴り 恩田睦 ☆☆ 元判事の関根多佳雄が主人公の謎解きミステリ短編集。軽い短編集です。
光の帝国―常野物語  恩田睦 ☆☆ 膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから―「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への思向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?超能力を持つが故の悲しいお話です。でもやっぱり超能力ものは宮部みゆきがいいですね。
対岸の彼女 角田光代 ☆☆ 第132回直木賞受賞作。独身の女社長・葵と、夫と子供を持つ主婦の小夜子は共に34歳。性格も育った環境も違う二人の女性に、真の友情を築くことはできるのか。直木賞を受賞しているが、上の桐野夏生と比べると文章も荒いし、内容も今ひとつ。お勧めしません。
 今月は篠田節子です。
篠田節子 家鳴り ☆☆ 「幻の穀物危機」「やどかり」「操作手」「春の便り」「家鳴り」「水球」「青らむ空のうつろの中に」篠田的ホラー、ちょっとザラッとする感触のものばかりです。
篠田節子 死神 ☆☆☆☆ アルコール中毒、麻薬、母子家庭…。病んだ現代社会の底辺で、真の救いを求めて生きる人々と、ともに悩み、苦しみ、成長するケースワーカーの姿を描く(出版社/著者の内容紹介から。)これはお勧め。どれもこれもさすが篠田です。
「しだれ梅の下」「花道」「七人の敵」「選手交替」「失われた二本の指へ」「緋の襦袢」「死神」「ファンタジア」
篠田節子 カノン ☆☆ 学生時代の恋人が自殺する瞬間迄弾いていたバッハのカノン。そのテープを手にした夜から、音楽教師・瑞穂の周りで奇怪な事件がくり返し起こり、日常生活が軋み始める。失われた二十年の歳月を超えて託された彼の死のメッセージ。(出版社/著者の内容紹介から)大して面白くなかった。
篠田節子 絹の変容 ☆☆ レーザーディスクのように輝く絹織物―。偶然、不思議な糸を吐く野蚕を発見した長谷康貴は、その魅力に憑かれ、バイオ・テクノロジー技術者・有田芳乃の協力で、蚕を繁殖させようとする。事業は成功したように見えたが、意外なパニックがまき起こる…。ミステリータッチのSF。第3回小説すばる新人賞受賞作品。(出版社/著者の内容紹介から)
どうということのない展開。
篠田節子 聖域  ☆☆ 関わった者たちを破滅へ導くという未完の原稿「聖域」。1人の文芸編集者が偶然見つけるが、得体の知れぬ魅力を秘めた世界へ引きずりこまれる。この小説を完成させようと、失踪した女流作家・水名川泉(みながわせん)の行方を捜し求めるその男は、「聖域」の舞台である東北へ辿りつく。(出版社/著者の内容紹介から)
篠田節子 ゴサインタン ☆☆☆ 豪農の跡取り、結木輝和はネパール人のカルバナと結婚したが、両親が相次いで死に、妻の奇異な行動で全財産を失う。怒り、悲しみ、恐れ、絶望…揺れ動き、さまよいながら、失踪した妻を探して辿り着いた場所は神の山ゴサインタンの麓だった。(出版社/著者の内容紹介から)第10回山本周五郎賞受賞作。意外な展開でおもしろい。新興宗教はこういう形で発生するのか。
篠田節子 女たちのジハード ☆☆☆☆ 保険会社に勤める異なるタイプの女性たち。結婚、仕事、生き方に迷い、挫折を経験しながらも、たくましく幸せを求めてゆく。現代OL道を生き生きと描く、(出版社/著者の内容紹介から)第117回直木賞受賞作。ドラマにもなったが、読み応え十分。
篠田節子 神鳥ーイビス ☆☆ 夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレーターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探りだそうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。(出版社/著者の内容紹介から)
ホラーとしては異色。篠田を全部という人にはまあまあか。
南木佳士(なぎけいし) 医学生 ☆☆☆☆ 『ダイヤモンドダスト』で芥川賞を取った南木佳士の小説。
彼自身の医大生時代を、スケッチするような静かなタッチで描いている。
新設された地方国立医科大学に通う4人の医学生、それぞれの事情でこの何もない田舎のまだ設備の整わない医科大学にやってきた。ある女性は、過疎地に医者が必要だということで、村の奨学生となり、あるものは、一期校に落ちて、この二期校へ、あるものは30代で、妻子を抱えて、医者の勉強を。そしてそれぞれの6年間が、彼らを医者という仕事に真摯に向かわせていく。医者という仕事の持つ重みが静かに伝わってくる、佳品でした。彼は「阿弥陀堂便り」も書いているんですね。
南木佳士 医者という仕事 ☆☆ 信州の田舎町に住む平凡な勤務医としての生活を大事にしながら書きたいものだけを書くそういう彼の、「生、老、病、死」についてのエッセイ。冒頭に、丸谷才一氏の医者に向く人の三条件というのが出てくる。それは丈夫な体、優しい心、まずまずの頭である。切れすぎる頭は病人を見る臨床には適さない、それは多分優しい心と共存できにくいからだろう、しかし、丈夫な体はやさしい心とも共存しにくいとも言っている。「医学生」の中でも、このエッセイの中でも末期がん患者のケアで、精神を病み、体を壊し、欝になる医師が登場する。死を常に身近にする医師はやさしく感受性豊かであるほど、ストレスを感じ自らの体を蝕む。そういう実体験が淡々とした筆致の中に滲み出て、感動してしまった。
サラ・ウォルターズ 半身 1874年秋、倫敦の監獄を慰問に訪れた上流婦人が、不思議な美しい女囚と出逢う。その女囚は霊媒。幾多の謎をはらむ物語。サマセット・モーム賞受賞。文章がよくて最後まで読んでしまったが、最後は今ひとつ。
浅田次郎 蒼穹の昴(1〜4) ☆☆☆ 中国清朝末期、貧しい生活をしていた春児(チュンル)。
父親、長兄は早死にし、次兄は病気、三男は行方知れず、疲れきった母と妹を抱えて、燃料になる糞拾いをし、懸命に生きていた彼は、ある日「なんじは昴を守護星とし、必ずや西太后の財宝を手中におさめるであろう」という予言をきいた。
優秀な宦官となり西太后の側近となった春児と、幼馴染の改革派の俊英・文秀(ウェンシウ)は、時代の激流に飲み込まれる。西太后、勇将・李鴻章(リイホンチャン)、ヴェネツィア出身の宣教師カスチリョーネなど、当時の列強に脅かされる落日の清国の状況がわかる。
おもしろいが、軽い。西太后の描き方がいまひとつかな。
浅田次郎 日輪の遺産 ☆☆ 終戦直前、帝国陸軍がマッカーサーから奪った時価二百兆円に上る財宝が極秘裏に隠匿された。それは、日本が敗戦から立ちあがるための資金となるはずだった。そして五十年後、一人の老人が遺した手帳がその真相を明らかにしようとしていた―。(出版社/著者の内容紹介から)
終戦時の勤労動員の女生徒たち、密命を帯びた軍人など、財宝に関わり、それを守るために生き、死んでいった人々の姿を描く。面白かったけどね。
浅田次郎 王妃の館 ☆☆ ルイ十四世が寵姫のために建てたという「王妃の館」は今ではパリの超高級ホテルだ。この館にダブルブッキングされた日本人ツアーが泊まることになる。倒産寸前の旅行代理店の策略は成功するのか・・・。プリズンホテル系の笑いと涙の海外ツアー。
浅田次郎 歩兵の本領 ☆☆ 名誉も誇りもない、そして戦闘を前提としていない、世界一奇妙な軍隊・自衛隊。世間が高度成長で浮かれ、就職の心配などない今の時代に、志願して自衛官になった若者たちを描く。(出版社/著者の内容紹介から)
著者自らの体験から綴っているからだろうか。浅田次郎独特の軽やかさがない。普段目にすることのない自衛隊の内部を覗いたという意味では面白かった。
東野 圭吾 白夜 ☆☆☆ 1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―、暗い眼をした少年と、美しい少女は・・・。(出版社の内容紹介より) 二人の周囲には幾つも犯罪が起こるが、何も「証拠」がない。十九年後二人はそれぞれの道を歩んでいるかに見えた。心を失った人間の悲劇を描くミステリー。 非常に暗い作品であるが、最後まで、一気に読ませた。
雫井 脩介 火の粉 ☆☆☆ 精神に異常のある、限りなく黒に近い「一家殺人の犯人」を、証拠不十分で無罪にした裁判官の家族に彼の魔の手が・・。状況証拠だけしかなかったために、犯人を有罪にできなかった被害者の家族が彼の異常性を立証しようとするが、それを巧妙に回避していく犯人。そして裁判官の家族も深く静かに互いに不信の芽を植えつけられていき、一家の精神的つながりを絶たれていく。
裁判官である主人公の性格があまりに一面的で興をそがれるが、女性の描き方はうまい。
最後は読んでのお楽しみです。
小野 不由美
十二国記
月の影影の海、風の万里 黎明の空、東の海神西の滄海、風の海 迷宮の岸、
黄昏の岸 暁の天、華胥の幽夢
☆☆☆ 「あなたは私の主(あるじ)、お迎えにまいりました」学校にケイキと名のる男が突然、現われて、陽子を連れ去った。海に映る月の光をくぐりぬけ、辿(たど)りついたところは、地図にない国。そして、ここで陽子を待ちうけていたのはなにか。(出版社/著者の内容紹介から)
のどかな風景とは裏腹に、闇から躍りでる異形の怪物たちとの戦い。「なぜ、あたしをここへ連れてきたの?」陽子を異界へ呼んだのは誰か?帰るあてもない陽子の孤独な旅が、ここから始まる。十作まで出ているこの本は、まだ完結していない。
十二の国のそれぞれの形が、それぞれの王と、それを補佐する麒麟によって、作り上げられる。
国を治めるとは、人を動かすとは、王であるとは、それぞれどうあればいいのかを模索する主人公たちの苦悩が、等身大に繰り広げられる。少年少女向けと思われるが、大人でも面白く読める。
高野和明 13階段 ☆☆☆ 犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすために刑務官・南郷は、前科を負った青年・三上と調査を始める。しかし手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶だけ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞受賞。死刑の是非について考えさせる小説だ。
帚木蓬生 閉鎖病棟 ☆☆☆ 精神科病棟に住まう重い過去をもちながらも明るく生きようとする患者たち。その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。彼を犯行へと向かわせたものは何か?
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。淡々としつつ優しさに溢れる語り口は胸にしみる。山本周五郎賞受賞作。
帚木蓬生 三度の海峡 ☆☆☆☆ 「一度目」は戦時下の強制連行だった。朝鮮から九州の炭鉱に送られた私は、口では言えぬ暴力と辱めを受け続けた。「二度目」は愛する日本女性との祖国への旅。地獄を後にした二人はささやかな幸福を噛みしめたのだが…。戦後半世紀を経た今、私は「三度目の海峡」を越えねばならなかった。"海峡"を渡り、強く成長する男の姿と、日韓史の深部を誠実に重ねて描く山本賞作家の本格長編。(出版社の内容紹介より)吉川英治文学新人賞受賞作品。
韓国における強制連行の実態と、植民地下に置かれた韓国・朝鮮人の想像を絶する扱われ方には戦慄すら覚える。、また自ら韓国から日本に来た韓国・朝鮮の人たちの生活もわかり興味深い。日本人は、この本を是非読むべきですね。
帚木蓬生 ヒットラーの防具 ☆☆☆☆ 東西の壁が崩壊したベルリンで、「贈ヒトラー閣下」と書かれた日本の剣道の防具が発見された。それは日本からヒトラーに送られたものだった。1938年、ベルリン駐在武官補佐官となった日独混血の青年、香田光彦がドイツで見たものは驚くべき勢いで成長してゆくナチスドイツであった。父の国であるドイツの現実に、次第に幻滅を覚えてゆく主人公。日独伊三国軍事同盟にも、彼は失望した。迫害に怯えるユダヤ人女性・ヒルデとの生活に幸福を見つけたが、居合術をヒトラーの前で披露するという任務をきっかけに、ヒトラーのボディーガードになる。彼の兄の勤める病院にも、弱者を抹殺しようとするナチスの魔の手が襲い掛かる。当時の日本とドイツの関係がよくわかり、面白い。
帚木蓬生 逃亡 ☆☆☆☆ 1945年8月15日、日本敗戦。国内外の日本人全ての運命が大きく変わろうとしていた―。香港で諜報活動に従事していた憲兵隊の守田軍曹は、戦後次第に反日感情を増す香港に身の危険を感じ、離隊を決意する。本名も身分も隠し、憲兵狩りに怯えつつ、命からがらの帰国。しかし彼を待っていたのは「戦犯」の烙印だった…。国家による戦犯追及。妻子とともに過ごす心安らかな日々も長くは続かなかった。守田はふたたび逃亡生活を余儀なくされる。いったい自分は何のために戦ってきたのか。自分は国に裏切られたのか。一方、男の脳裏からは、香港憲兵隊時代に英国民間人を拷問、死に至らしめた忌まわしい記憶が片時も離れることはなかったが…。(出版社の内容紹介より)柴田錬三郎賞受賞。久々に読み応えあり。「国家と個人」を問う日本人必読の2000枚です。
帚木蓬生 薔薇窓 ☆☆☆ パリの警視庁付の精神科医が診断した日本娘。花の都を襲った連続誘拐事件と貴婦人ストーカーをつなぐ狂気の糸は、日本ブームに沸く街を恐怖で絡め取った…。(出版社の内容紹介より)
万国博覧会のパリが舞台。100年前に日本からパリに住み付いた骨董商と精神科医との交流が魅力。
多島斗志之 症例A ☆☆☆☆ 精神分裂症(現在では統合失調症という)の治療にあたっていた精神科医が、担当患者の言動から、境界例という診断を下そうとしたが、精神分析を専門とする、女性臨床心理士との出会いによってその患者が実は解離性同一性障害(多重人格)だということが分かる。
精神科医の診療の実態、精神病院のあり方、精神分析の是非など、多くの興味深いテーマが盛り込まれていて面白かった。多重人格について、最近かなり取りざたされているが、正常と異常との境界は、また治療するとはどういうことなのかなど非常に説得力のある内容である。サスペンス的な部分もあるが、そういう要素がなくても、むしろそれが邪魔なほど興味深く、降りる駅を忘れてしまうほどだった。「多重人格」についてはアメリカで報告例が数多くあるようだが、日本ではまだあまり知られていない時期にかかれ、現役の精神科医の絶賛を浴びたそうだ。
「多重人格」についてはダニエルキースの「24人のビリーミリガン」を読んで興味を持っていたが、より一層よくわかっておもしろかった。
ジェフリ−・アーチャー 運命の息子 双子の赤ん坊の一人が、生れ落ちてすぐ同じ日に死産をした夫婦の子供として育つことになる。優秀な二人は、それぞれに立派に育ち、ついに州知事選で戦うことに・・・。(出版社の内容紹介より)
ジェフリーアーチャーらしい展開。「ケインとアベル」や、「ロスノフスキー家の娘」と比べると少し落ちる。暇があれば、あるいはジェフリーアーチャーは全部読みたいという人なら。
スティ−ブン・キング 幸運の25セント硬貨 キングの短編集としてはいまひとつ。習作という程度の色合いだ。表題の短編だけは秀逸。
スティ−ブン・キング ローズマダー ☆☆ ドメスティックバイオレンスから逃れた世間知らずの女性が、同じ境遇の女性たちの救済所で、自分に目覚める。そして骨董店で見つけた不思議な絵の中の女性に導かれ、野獣と化した夫を完膚なきまでにたたきのめすというお話。かなりオカルティックで、こわい。キングを全部読みたいという人にはまあまあです。
宮城谷昌光 奇貨置くべし ☆☆☆ 火運篇:荀子、孟嘗君ら、乱世の英俊の薫陶を受け、大きく成長する青年呂不韋。
黄河篇:孟嘗君亡きあと、謀略に落ちた慈光苑の人びとを助け新たな一歩を踏み出す呂不韋。この一歩が天下を経略する一歩になる。
飛翔篇:いよいよ賈人として立つ、呂不韋。とらわれの身となった公子・異人をたすけ、大国・秦の政治の中枢に食い込むための大きな賭けが始まる。
天命篇:商賈の道を捨て、荘襄王とともに、理想の政体の実現に向けて、秦の政治改革に奔走する呂不韋だが、ようやく手腕を振るえると思った矢先荘襄王が死ぬ。異人の息子が始皇帝として即位。不韋と、始皇帝はそりが合わない。秦の始皇帝の父とも言われる呂不韋だが、少年期から青年期にいたる物語は呂不韋の清廉な人柄に魅了される、しかし、宰相にまで上りつめた後の、呂不韋からは輝きが失われる。荘襄王の死がなければ、中国の歴史は変わっていたかもしれない。
ダナ・ウィリアムズ 自閉症だった私T ☆☆☆☆☆ 自閉症者である著者本人が自らの生い立ちと、「自分が自閉症である」という事実に辿り着くまでの闘いと葛藤を描いた作品!私はこれを読んで、まさに目からウロコでした。”彼らの独特の世界”が確かに存在するということに。そして彼女を導いてくれた人との出会い。努力。喜び、きらめくような彼女の魂が私の心を奪いました。
ダナウィリアムズ 自閉症だった私U ☆☆☆☆ 前作から、次に彼女がしようとしたことは教師になること、そして、自分と同じアスペルガー症候群の人たちにメッセージを送り続けること。本を出すことになるまでのさまざまな人との出会い、別れ。自閉症の人、また自閉症の家族を持つ人にとってこれは大きなよりどころですね
宮城谷昌光 奇貨置くべし
春風編
☆☆☆☆ 秦の始皇帝の父ともいわれる呂不韋。一商人から宰相にまでのぼりつめたその波瀾の生涯を描く。多くの食客を抱え、『呂氏春秋』を編んだということ以外、多くの謎に包まれた呂不韋に、澄明な筆致で生命を与え、みごとな人物像を作り上げた、六年半に及ぶ大作。第一巻春風篇では、呂不韋の少年時代を描く。(amazon「book」データベースより)宮城谷昌光は「天空の舟」「夏姫春秋」以来三作目です。後四篇が楽しみ。読了後感想を書きます。
浅田次郎 プリズンホテル(春) ☆☆ 極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを「プリズンホテル」と呼ぶ―。熱血ホテルマン、天才シェフ、心中志願の一家…不思議な宿につどう奇妙な人々がくりひろげる、笑いと涙のスペシャル・ツアー。(出版社の内容紹介より)
宮部みゆき ぼんくら(上下) ☆☆☆ 江戸・深川の鉄瓶長屋で八百屋の太助が殺された。その後、評判の良かった差配人が姿を消し、三つの家族も次々と失踪してしまった。いったい、この長屋には何が起きているのか。ぼんくらな同心・平四郎が動き始めた。(出版社からの内容紹介より)
浅田次郎 月のしずく ☆☆☆ 短編集、収録作品は「月のしずく」「聖夜の肖像」「銀色の雨」「琉璃想」「花や今宵」「ふくちゃんのジャック・ナイフ」「ピエタ」とにかくうまい、一気に読ませる。しみじみと心に残る。
私が特に好きなのは「聖夜の肖像」「銀色の雨」「ピエタ」古本屋で見つけたらぜひ購入を。
浅田次郎 地下鉄(メトロ)に乗って ☆☆☆ 父とその息子はある時期から絶縁状態だった。父の危篤に知らせにも溶けない心。そんな息子がある日地下鉄永田町駅の階段を上がると、そこは三十年前の風景だった。ワンマンな父に反発し自殺した兄、さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された"過去"に行った息子は…。(出版社の内容紹介より)吉川英治文学新人賞。
なかにし礼 赤い月 ☆☆ 夢と野望を持った勇太郎と波子はしがらみに満ちた日本を離れ、まだ広大な原野でしかない満州へ。馬賊におびえながらも働きに働いて造り酒屋で財を成したころ敗戦。勇太郎の留守中、波子は二人の子供を守るために、明日をも知れぬ過酷な日々を生きる。この小説はこの波子という一人の女性が、子供を生かすために、またその子供を守るためには自分を守るしかないと善も悪も関係なく、飲み下してしまうたくましい生き様を描いている。が、実話であるためか、どうもしっくり来ない。中西礼の母親がモデルらしいが今ひとつ。
ダニエルキース アルジャーノンに花束を ☆☆☆☆ 知的障害のある陽気な青年チャーリーが人工的に知能を高める人体実験の被験者になり、やがて彼の知能は超天才の域に達していく。同じ実験を受けた白ネズミのアルジャーノンに彼の見たものは…。(出版社の内容紹介より)
映画にもなったようですが、たぶん本のほうが面白いと思う。おすすめです。
篠田節子 斉藤家の核弾頭 ☆☆☆ 「国家主義カースト制」によって超管理社会となった2075年の東京。政府の謀略により長年住み慣れた家からの立ち退きを強制された斎藤家は、理不尽な転居命令に抵抗し、近隣住民とともに手製の核爆弾を武器に日本国に宣戦布告する。(本の裏表紙より)。予想外の展開で面白かった。
北原 亜以子 恋忘れ草 ☆☆☆☆ 新進気鋭の女流絵師歌川芳花ことおいちは出世作「竹林七美人図」で、彫り師を勤めた才次郎と恋に落ちる。一途に才次郎を求めるおいちだが、才次郎には女房と子供が待つ家があった。江戸の町で恋と仕事に生きたキャリアウーマンたちの哀歓を描き、直木賞をとった珠玉の連作集。(出版社の内容紹介より)表題作のほかに「恋風」「男の八分」「後姿」「恋知らず」「萌えいずる時」北原の江戸物は宮部みゆきとは趣が異なるが、好きです。
北原 亜以子 花冷え ☆☆☆☆ 紺屋の大店の末娘おたえは、幼くして両親を亡くし、叔父の店で育った。奉公人の弥吉は、5つ年上の型付け職人。いい仲になった2人を、叔父は夫婦養子にと考えていたのだが……。ささやかな幸せを求め健気に生きている、そんな女の一途な想いを情感溢れる筆致で細やかに描いた、珠玉の時代小説7篇を収録。(出版社からの内容紹介より)「花冷え」「虹」「片葉の葦」「女子豹変す」「胸突坂」「古橋村の秋」「待てば日和も」北原の江戸物はやっぱりいいですね。
北原 亜以子 深川澪通り木戸番小屋 ☆☆☆☆ 川沿いの澪通りの木戸番夫婦は、人に言えない苦労の末に、深川に流れて来たと噂されている。思い通りにならない暮らしに苦しむ人々は、この2人を訪れて知恵を借り、生きる力を取りもどしてゆく。傷つきながらも、まっとうに生きようとつとめる市井の男女を、こまやかに暖かく描く、(出版社からの内容紹介より)泉鏡花賞受賞の名作集。「深川澪通り木戸番小屋」「両国橋から」「坂道の冬」「深川しぐれ」「ともだち」「名人かたぎ」「梅雨の晴れ間」この夫婦のあり方は、とても魅力的。
佐藤愛子 老残のたしなみ―日々是上機嫌 ☆☆☆ 現代の日本を憂い、怒り、それを楽しみにしている著者の痛快エッセイ。「老薬は口に苦し」「かわいそうなおばあさん」「日々是上機嫌」という表題の下に、子供の教育、老後、健康、日本人論にいたるまで、若いころより、達観したところもあり、そうだそうだと思いつつ、さっと読めてしまう。
浅田次郎 壬生義士伝 ☆☆☆☆ 小雪の舞う一月の夜更け、大坂・南部藩蔵屋敷に、満身創痍の侍がたどり着いた。貧しさから南部藩を脱藩し、壬生浪と呼ばれた新選組に入隊した吉村貫一郎である。“人斬り貫一”と恐れられ、妻子への仕送りのため守銭奴と蔑まれつつ、飢えた者には握り飯を施す男(出版社からの内容紹介より)
。映画も見たが原作ははるかに面白い。もと新撰組隊士や南部藩での教え子が彼の姿を語ることで、人物像が浮き彫りにされていく。それは究極の貧しさの中で妻を愛し、子を愛し、義のために戦う心ある武士の姿だ。それぞれの語り口は南部弁あり、江戸弁あり、浅田次郎の構成の確かさ、面白さは圧巻だった。
宮尾登美子 天勝院篤姫 ☆☆☆ 薩摩島津家の分家に生れた篤姫は幼いころから、学問に秀で、心栄えの美しい娘として成長し、藩主斉彬の養女となった。聡明な人柄を見込んだ斉彬は画策の末、篤姫を13代将軍家定の正室として江戸城に送りこんだ。病弱な夫との形ばかりの結婚に耐え、義父の秘命(一ツ橋慶喜を将軍に据える)を果たそうと努めるが、黒船来航、英仏米に開国を迫られ、それに疲れた夫の死後は井伊直弼の後見で家茂が紀州から呼ばれ、皇妹和宮と結婚、これについては「和宮お留め」とも比べて面白い。桜田門で井伊直弼は暗殺。大奥での江戸方と京方の確執の中、和宮の信頼を得るも、家茂が上洛を敢行し、家茂は病死。慶喜が将軍職を継ぎ、大政奉還を果たす。激動の時代を徳川家の御台所として大奥3千人を統べる篤姫。その苦悩と喜びは今にも十分通用する面白さだった。
宮尾登美子 仁淀川 ☆☆☆ 綾子は昭和21年終戦の翌年、夫と幼い娘と共に満州から高知県の夫の生家へ引き揚げてきた。お嬢さん育ちの綾子はこれから農家の嫁として生きなければならない。その葛藤と最愛の父母の死までを描く。『櫂』『春燈』『朱夏』に続きこれは彼女が作家として生きるようになるまでを描いている。『櫂』は太宰治文学賞をとっている。私は松たか子のドラマを見て興味を持ってこの連作を読み始めたんだけど、ドラマもよくできていました。
ジョン・ダワー 敗北を抱きしめて(上下) ☆☆☆ ジョンダワーはアメリカ、マサチューセッツ工科大学教授。 アメリカの占領下にある日本を、トップレベルの人の観点からだけではなく、社会のすべての層に光をあて、敗戦がどのように一般市氏に受け入れられたかを生き生きと描いている。戦後の天皇制や戦重責任について、さらには敗戦後日本がどのように立ち直ろうとしたのかを多くの資料を収集し、多面的にアプローチしている。ダワーは「私が力を入れて伝えたかったのは、敗戦の後日本の人々が直面した苦難や課題 であり、敗戦に対して日本人がみせた多様で、エネルギッシュで、矛盾に満ちた、素晴らしい反 応だった」と述べている。彼は20歳のときに金沢を訪れその後日本女性と結婚している。戦後日米関係の中心人物である吉田茂の研究でも知られている。
ピュリッツァー賞受賞。
上下2巻のこの本は、戦後生まれの私自身が小説、映画などで知りえた敗戦後の日本人のありようを客観的に多くの写真とともに示してくれたと言う点で非常に興味深いものでした。学術的な記述も多いですが、戦後に読まれた雑誌、ファッションなど多岐にわたりどんどん読み進んでしまいます。一冊2200円と高価なので図書館で借りることをお勧めします。
篠田節子 100年の恋 ☆☆☆ NHKで11時からドラマをやっていましたが、原作を同僚から「お勧め」といわれて借りました。
テレビより面白い。一部のすきもない外資系のバリバリキャリアウーマンがさえないSF系翻訳や科学雑誌系のライターと結婚。主人公はこのライター君。
驚くべき新婚生活と子育ての顛末。働く女性にとっては共感。切なく、ほろりとするライター君の独白。面白かった。
水野俊平 韓国の若者を知りたい     ☆☆☆☆ 焼肉やキムチ、映画や歌手は知っていても、ふつうの若者がどんな暮らしをし、どんな感覚をもっているか。過酷な受験競争、きびしい校則、二年以上の兵役、濃密な友だちづきあい。さらに、歴史認識と日本人をどう見ているか。隣人としてつきあっていくために、これだけは知っておきたいということが網羅。韓国学生からの日本人と付き合う際の留意点や、アンケートは非常に参考になる。
今の韓国の入門書としては必見です。
林真理子 コスメティックス ☆☆☆ キャリア女性たちの恋と仕事、夢と本音と現実を浮き彫りにしたベストセラー小説。
化粧品業界を舞台に繰り広げられる“女たちの闘い。
林真理子は好きじゃないがこれは面白かった。
天木直人 さらば外務省 ☆☆☆ 辞任したレバノン特命全権大使が、「拉致問題」「イラク」などで小泉政権の外交政策を徹底批判。さらに、外務省犯罪行為、職員の劣化ぶりを具体的に糾弾する。キャリア官僚が、自分の首と引き替えにすべてを書いた驚愕の書。(出版社からの内容紹介より)
田中真紀子が暴こうとした外務官僚の
体質のすべてがわかる。
呉 善花 濃縮パック コリアンカルチャー
☆☆ これは呉善花さんの読みやすい韓国入門書です。総花的になりすぎて私としては物足りません。
でも初めて読む人にはとっつきやすいかもしれません。彼女のそのほかの著書を読んだ人なら読まなくてもいいと思います。